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made in tokyo

東京の縫製工場marya(マーヤ)を訪ねて

先日、東京都足立区にある縫製工場マーヤさんを見学させていただいた。 マーヤさんは東京を代表する縫製工場の一つで、三代に渡って受け継がれていく程の歴史のある工場である。 日本のアパレルの生産を何十年も前から体現してきた偉大な経験をお持ちです。 前回の工場見学の青森サンヨーソーイングさんと同様に工場内の見学とその後のお話しであっという間に時間が過ぎてしまい、 昼過ぎに伺ったのに気づいたら外が暗くなってしまいました。

マーヤさんが取引しているブランドは国内で一目置かれているブランドばかりである。 そのマーヤさんの高い縫製品質はデザインの一部となって商品を支えている。 難素材や複雑な仕様でのデザインは良き縫製の上にしか成り立たないのである。 良き縫製というものは商品のデザインになり得るということを実感させてくれる。 だからこそハイブランドが信頼して商品の生産を委ねることができる縫製工場であり続けられるのだろう。 こちらのマーヤさんは東京都足立区の他に千葉県にも縫製工場を持っている。 驚く事に千葉の縫製工場の技術者達は30代の方達が多いとのこと。 日本全国の縫製工場は高齢化問題に悩まされていて、そんな状況で30代の方達が多いというのは希少なことである。 これは人材確保に対して長年真摯に向き合ってきた結果なのだろう。 さらに三代目になるであろう専務も若いのである。 技術を支えている方達が若いということはつまり伸び代があるということである。 現在でも高い品質を維持しているのにまだ伸び代があるとは驚きでしかない。 この将来性の高さは国内縫製工場としては完全に希少な存在だ。 ほとんどの縫製工場が将来へ継続して行く為の担い手不足に悩まされているのが現状なのである。 その現実はもちろんアパレルにとってもおおきな問題である。 全てのアパレルがというわけではないのだが、ほとんどのアパレルは、生産を依頼している国内縫製工場が10年後廃業しているかもしれないというリスクの中で衣服の生産を行っている。 そしてその現実を見て見ぬふりしているアパレルがほとんどで、見えてさえいない場合もある。 中間業者に頼っているアパレルは、国内の生産背景の現実が見えないのである。 中間業者に依存を続けた結果、服作りの本質を理解しているアパレルは本当に減ってしまった。 そんな中でも、新規アパレルやインフルエンサーなどが小規模でブランドを立ち上げる動きが驚くほど増えている。 コロナ禍で全体的な生産は落ちていても、新しい動きが始まっているのである。 海外のコスト高騰と国内縫製工場の減少から国内での依頼が一定の縫製工場に集中し始めている。 これからは技術の高く良識のある国内縫製工場は取り合いになるのかもしれない。 工場を探す最中にもしもこのマーヤさんに巡り会うことができて取引が出来ることになったなら、 その奇跡を大切にした方がいい。現在マーヤさんへの依頼の問い合わせはとてつもなく多い。 例えば私がメーカーの生産担当だとするとマーヤさんと取引するためであれば何度も足を運ぶし工賃も納得できるように上司を説得し続けるだろう。 それだけする価値のある縫製工場である。なぜならマーヤさんは技術だけでなく将来性も良識もあり、 いずれ東京を越え国内の縫製背景を背負って立つ存在になる可能性を持つ工場なのだから。

どんな仕事でも増えれば良いというわけではない。当然、縫製工場においては利益率の高い仕事を考えるのは急務である。 そのような仕事でまず考えられるのは請け負い仕事だけではなく、自社で企画し販売する仕事となる。 俗に言うファクトリーブランドである。コストの合わない不合理な商品ではなく、コストを理解した上での合理的な商品の企画をする。 全国的に見ても縫製工場がファクトリーブランドを進めているのは多くなっている。 というよりそれがスタンダードと言ってもいい。 その理由はもちろんネットの普及で販売がしやすくなったことや、コロナで受注が落ち込んだことも理由だが その理由と同等に合理的な商品が作れるからという理由もある。それぐらいに請け負い仕事での商品は不合理な仕様が多いのである。 その他にも理由は沢山あるが話が長くなるので別の機会にする。 ファクトリーブランドを進めるにしても、ほとんどの縫製工場に企画機能の部署はなく、 コストとリスクの問題を考えると最初から人材を入れるわけにもいかない。 そうなると、今いる人員で通常業務をこなしながらその企画に向き合っていくことになる。 本気で取り組むことのできる人材が社内にいなければ成功するしないの前に取り組むことさえ出来ないのである。 スタートラインにさえ立てない事になる。 マーヤさんではすでに自社ブランドを立ち上げていて専務を中心に新しい取り組みも始めていてる。 その時代に向き合う姿勢を尊敬するし、これから聞けるだろういいニュースが楽しみでしょうがない。

マーヤ社長さんのプレス屋についてのお話しの中で印象深かったのが「運が良かった」という言葉である。 私は今までに色々な縫製工場の経営者さんや責任者さんに機会を作って頂いてはお話しを聞いて来ました。 その尊敬する方達は共通してこの運という言葉を使い、それをとびきり楽しそうに話す。 もちろん、本当に運が味方をしてくれることもあるのだろうが、 自らの努力の中から得た結果を謙虚な言い方にすれば運と話すこともできる。 そんな尊敬すべき方達のようにいつか自分も運を引き込めるような人間になれれば良いのだが。

足立区では2007年から「足立ブランド」という区内企業の優れた製品や技術を認定し発信していく取り組みがある。 もちろんマーヤさんも認定を受けている。帰り際に足立ブランドを紹介する冊子を頂き拝見させていただいたのだが、 小洒落た旅行冊子のような完成度でデザイン性があるのに親しみやすくて驚いた。他業種にわたり紹介されていて、足立区のものづくりワークショップツアーなどがあれば参加したいくらいだ。 行政がこのような後押しをするのは、何年も前からものづくりを継承して続いていくことを諦めずに訴えていた方達や、 それを応援してくれた方達がいたからこのような取り組みが始まり、今に続いているのだと思う。 先駆者の偉大さに本当に胸が熱くなるの押さえられない。