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初めに

このページは説明ばかりです。 先にsewingworksを見ていただくことをお勧めします。 そちらが見終わりましてから、こちらのページを見ていただけたら幸いです。

これから説明するのは裁断の技術や知識ではなく、裁断前に必要な考え方の紹介です。 裁断前の工程というのは各縫製工場ごとに多種多様です。 それは工場のオリジナルティの出る部分かと思います。 何が正解ということではなく、ちょっとした考え方の違いで工程に違いが出ますが、 基本的にはどこの工場も生地の寸法変化にどのように対応するかを意識してのことかと思います。 以下が裁断前の流れになります

生地のことを知る

まずは裁断する生地のことを知ることから始まります。 その生地は海外の生地なのか国内の生地なのか、 たたみで来たのか反物で来たのか、 スポンジング(シュランク)されているのかどうか、 検反されているか、されていないか、 染めや加工や修正がされているか、されていないか、 などなど、その全てが生地にとっては状態が変化してしまうことばかりです。

海外の生地であれば日本とは天気や湿度の違う所で作られたことになります。 たたみではなく反物ということであれば生地を巻く際に少なからずテンションをかけることになります。 生地を巻いたことのある方ならわかると思いますが、 生地というのは少し引っ張りながら巻くのが綺麗に巻けるからです。 反物ではなくたたみであれば巻きよりもかかっているテンションは 少ないことになりますが頑固なたたみじわは時として消す事が出来ません。 スポンジングしてリラクシングされたとしても、 もう一度巻き直す事になるので再度テンションをかけて巻くことになります。 染めや加工、修正などが入る際もほどいた反物は再度巻くことになります。 染めの色によっては生地の張りも違います。 そもそも染めでなかろうと色によって生地の状態変化も違います。 修正や加工は有効生地幅を少なくしてしまうことも当たり前にあります。 などなどを踏まえましても、 生地はどんな工程を経てきても、自然な状態であるとは言い難いという結論になります。 この結論は良識のある縫製工場なら共通して持っている結論になり 各々独自の考え方でリラクシングを行っているはずです。 大事なのは生地を自然な状態にさせる事ではなくて、 その生地を使って作った商品が自然な状態ででいられるかという事です。 目的は生地のリラックスではなく商品のリラックスなのです。そこを履き違えてはいけません。

生地を検査して寸法変化を調べる

裁断されたパーツにスチームアイロンをかけたら縮んでしまった。 もしくは大きくなってしまった。そんな経験をしたことがあるかと思います。 適切な工程を経ないと裁断後に熱や蒸気で寸法が変化するのは良くあることです。 仕上がり後の寸法が変わってしまう事は出来るだけ避けたいわけですが、 寸法が変わってしまう事は絶対的に悪というわけでは有りません。 自然なシルエットを出す為には寸法変化が必要な場合も、とてもとても多くあります。 大事なのは生地の変化を理解することです。 生地の変化を理解している作業と、理解していない作業は、全くの別ものです。

生地の寸法変化を調べる順番は 実際の作業工程順に沿って検査をしていくことで現実的な寸法変化が確認出来ます。 JISで言えばH法の1〜4を縫製現場の工程順に合わせて検査していきます。 検査をしていく順番も服を作り上げていく順番を意識して検査してみましょう。

ある程度の長さにカットした生地にたいして一つ一つの工程毎に寸法を測り、 その差寸を%で計測していきます。 この時のある程度とは、両耳を残して縦に30C以上の長さがあれば充分かと思います。 ここで耳を残すのは耳がある状態での裁断が一般的だからです。 特別な案件で、もしも耳をカットしてから裁断をするのであれば、 耳をカットした状態での検査の方が正確な有効生地巾を確認できます。 先の工程を踏まえて、意味のある検査を行うことが大切です。 計測するのは縦方向横方向で計2箇所づつ計り、平均値も出しましょう。

この順番で検査をすれば基本的な商品で有れば充分だと思います。 地のしの検査の前までで、地のしをしなかった場合に縫製工程上で起こる変化がわかります。 地のしの検査では、地のしでの変化がわかります。 芯貼り機を通してからの検査では、芯貼り後の縫製工程上で起こる変化がわかります。 もっと簡単に言えば、生地に何もしなかった場合と、地のしした場合と、芯貼りをした場合の寸法変化が分かります。

この検査は各色ごとに検査をします。 色が違えば生地は全くの別物です。 変化率が違うなんて事は当たり前にあります。 以前驚いたのは3色展開のシルクの商品で1色のみ静電気が強く起きて、 残りの2色は全く静電気が起きない、そんなこともありました。 寸法の変化とは関係がありませんが・・・。別物なのです。

地のし

生地検査の結果が出ましたら、その寸法変化率を踏まえて丈切りをします。 縦で2%縮むならば用尺を出す際に2%の余白をプラスしましょう。 横が2%縮むならば生地巾をマイナス2%してのマーキングをしましょう。 このように生地の寸法変化率を入れて用尺を出すことが現実的な用尺となります。 今回紹介している方法では、丈切りをしてから地のし(リラクシング)をするので、 寸法変化率を加味せずにカットしてしまうと生地が縮む場合、恐ろしいことが起きてしまいます。

それでは反物から丈切りをし、地のし(リラクシング)を始めます。 生地巾が乗るアイロン台に丈切りをした生地を置きます。 地の目に沿ってスチームを出しながら、右耳から左耳へ4〜5Cづつ横にずらしては上下して満遍なくスチームをかけ、 しっかりとバキュームで引きましょう。 アイロンは強く圧力をかけず出来るだけ生地の表面を優しく撫でる程度にします。 生地の風合いを消さないよう、基本的には裏からかける方が安全です。 これが地のしという、もっともアナログで現実的な生地のリラクシングになります。 丈に切っていますのでもう一度巻くこともありません。このまま重ねて行く事ができます。

放反

放反とは反物から巻きをほどき、 生地を平な状態で一昼夜置き生地にかかっているテンションを解き放つ作業です。 自動放反機であれば平というわけではなく折り畳まれた状態での一昼夜になるかと思います。 どちらにせよ生地をリラックスさせる為の工程です。 その放反もその先の事を想定してやるとより意味付けが出来るかと思います。

それでは商品になった時のことを想定してみましょう。 人が服を着る時、服は肩で吊るされている状態になります。 ボトムであればウエストで止めて吊るされている状態です。 つまり服は吊るされた状態で重力を縦方向に向かって受けることになります。 放反もその状態を模して行えば服になる前に服になった時を想定した向きで重力を経験させることが出来ます。 地のしで一度生地を自然な状態にリセットして、 その後に重力というテンションを経験させておくという事です。 せっかくリラクシングしたのに、と思われるかと思いますが、 服になってからの重力というテンションを受けての寸法変化は対応ができません。 地球は重力がありますので、ようこそ地球へという気持ちで生地を吊るしてあげましょう。 どうせ、これから先、服はお店でハンガーにかかってる時も、 着用されている時もずっと吊るされるわけです。 服が平な時は畳まれている時くらいなもんです。

それでは、地のしを終えリラックスさせた生地を吊るすように放反していきます。 直径10c程の丸い棒状のものに生地の中心付近を合わせて重ねて掛けていきましょう。 もしも棒状のものが丸ではなく角があると生地に極地的な力がかかってしまうので絶対にダメです。 棒に触れてない部分はフラシになりますので、 生地を重ねて加重が加わるのは棒に接してる部分のみになります、 それでも円状のものですので加重も分散されています。

< 吊るし放反 >

吊るし放反

このように生地を吊るす事で服になった時の重力による変化を先にさせることが出来ますので、 服になってからの重力の影響は少なくなるはずです。 必ず縦地になるように重ねるではなく、商品になった時の縦の向きで重ねましょう。 横地の商品で有れば横地が縦になるように重ねた方が、この考え方に沿っているかと思います。

延反

延反する時にも出来るだけ生地にテンションをかけてはいけません。 せっかくのここまでの工程が無駄になってしまいます。 地のしの時点で既に用尺にカットしていますので、あとはこれを綺麗に重ねていきます。 今回紹介している考え方だと、コンベア式の延反機が理想的かと思います。 生地1枚をコンベアにのせ微振動をあたえながら上にのせるような感じで(ストンとと落とすように)積み重ねていくことができます。 人の手で重ねる場合もフワッと広げてストンと落とす感じで重ねていきます。 重ね具合を微調整する場合も引っ張らずに出来るだけ軽くフワッと馴染ませましょう。 フワッと、とか、ストンとか、非常に抽象的ですが、残念ながらこれ以上にふさわしい言葉が見当たらないので許して下さい。

裁断

裁断には裁断機やCAMが使われることが多いですが、 小ロットであれば裁ちハサミやローリングカッターも十分に活躍するでしょう。 どんなやり方で裁断するにしても、相手が生地である以上絶対はないです。 どんなに精密な準備をしたとしても絶対はありません。 ここまでミリ単位で生地に対して接してきました。 もちろんそれくらいの誤差での裁断は可能だと思います。 ですがこのミリ単位を越えるミリ単位以下の誤差なく裁断することができるわけではありません。 もう一度言いますが、相手が生地である以上絶対はないのです。 縫製をする人はそこを踏まえて作業をすべきです。ノッチを合わせる事が仕事では無いのです。 結局はどのように理解して縫製ができるかでここまでの裁断前の工程を生かせるかが決まるのです。

終わりに

生地をリラックスさせるのは大事なことですが、 もっと大切なのは出来上がった服がリラックスしているかという事です。 生地が服になった時に、服としてリラックス出来ているかが重要なのです。 お客様は生地を着ているのではなく服を着ているのだから。 「生地がリラックスしている=服がリラックスしている」ではないのです。 服がリラックスするためには生地には重力というテンションを超えてもらわなければなりません。 理想的な服作りは綺麗に裁断し綺麗に縫うことではなく、着用したときに綺麗な服を作る事です。 切る為ではなく、縫う為でもないです。着る為です。