sewing
made in tokyo
はじめに
このページは縫い方や細かい技術を紹介するページではなく、 縫製をするために必要な地の目の理論を紹介するページになります。 技術的な紹介はworksの方へ。 と言いたいところですが、そんな方にこそ最後までこのページを見て頂きたいと思います。 このページを見ていただければ、必ずあなたの技術の肉付けになります。
長い説明の上、非常に周りくどい説明になりますが。どうか諦めずに最後まで読んでみて下さい。
地の目について
生地には地の目があります。 地の目のメカニズムを理解し、常に意識しながら縫製とアイロンワークをすることで 商品の仕上がりの雰囲気を大きく変えることができます。
地の目が通っていなければ伸びる・・。というわけではありません。
その答えに近づくために必要になってくるのが、地の目を理解することです。 理解した上で意識することができれば、 従来の既製服とは違う、絶対的な存在感を服にまとわせることができるのです。
地の目が通っていないと、伸びやすいというのが一般的な考え方になりますが、 生地が伸びるということは馴染みが良いとうことでもあります。 生地に無理をさせず、波打たせることもなく、自然な状態で縫い合わせることが出来れば、 柔らかく緊張感の無い縫い目にすることができます。 地の目を理解し、うまく利用することが重要なのです.
バイヤス正方形
改めて、バイヤスが伸びるのかどうかを下の画像で確認して見ましょう。
正方形の各4辺はロックをかけたことで伸びています。 ロックはミシンよりも押さえのホールド力が高いので、地の目の影響を強く受けます。 光沢のある生地を使用しましたので、生地の波打ちがわかるかと思います。
ひし形
ひし形になりますと各4辺の角度は45度(正バイヤス)ではなくなります。 下の2枚の画像のひし形の4辺は地の目が通っていません。 ですが、伸びている辺と伸びていない辺があります。 つまり、ミシンをかける場合は地の目が通っていないと必ず伸びるということでは無いのです。
< A >の画像はタテに長いひし形, < B >の画像はヨコに長いひし形, 両方とも画像上の頂点から 時計回りにロックをかけたものです。 矢印は地の目になります。
Aの画像は右上と左下が伸びています。Bの画像は左上と右下が伸びています。 地の目が通っていないという点では変わりはないのですが、 2枚の画像ではまったく逆の結果が出ています。 それでは地の目の状況を整理してみましょう。 ヨコ地の目の強さとタテ地の目の強さは、同じではありません。 画像の上の頂点から時計回りにロックをかけました。 かけ始めた辺の地の目の状況は、タテ地からそれていきながらヨコ地に向かっていきます。 次の角を曲がるとヨコ地からそれていきながらタテ地に向かっていくようになります。 さらに次の角を曲がるとタテ地とヨコ地の進行方向は変わりますが、地の目の状況は最初に戻ります。 言葉にするとかなり複雑な話になってきてしまいます・・・・・。 そんな風に難しいことを考える必要はなくて、実は答えはもっとシンプルになります。
地の目の角度
それでは、伸びた辺と伸びなかった辺の違いを見て見ましょう。下の画像を確認して下さい。
伸びた辺と伸びなかった辺の違いは地の目に対する角度です。 伸びた辺の地の目に対する角度は45度よりも鋭角になります。 伸びなかった辺の地の目に対する角度は45度よりも鈍角になります。 裁ち端の地の目に対する角度により、地の目の生地を支える力が変わります。 45度という位置が区切りになっていて、 それ以上か、それ以下かで生地の地の目を支える力が変わり、伸びるか、伸びないかが決定します。
地の目の影響
生地の裁ち端が伸びるか伸びないかは、 裁ち端の角度が45度(正バイヤス)よりも角度が高いか低いかで決まります。 45度以下であれば伸びやすくなります。 45度以上であれば伸びにくく、いさりやすくなります。 ただ誤解してはいけません。、単純に伸びない地の目というわけではないのです。 ロックやミシンをかける際に生地を伸ばしてしまったり、 キープが甘いと当たり前のことですが伸びてしまいます。 アイロンワークにしても同様です。伸ばしてしまえば当たり前のことですが、伸びます。
曲線
次は曲線ではどうなるのか確認してみましょう。 曲線では裁ち端の地の目は一定ではなく少しづつ変化します。
Aの画像はヨコ地に沿ってロックをかけて、 Bの画像はタテ地に沿ってロックをかけました。 耳があるのでわかりやすいかと思います。 ロックは画像右から左に向かってかけてあります。 矢印は地の目になります。
曲線でも伸びている箇所と伸びていない箇所があります。 伸びていない箇所では、少しいさりも出ています。 わかりやすくする為、今回も角度線を入れてみましょう。
左右対称の曲線でも一方向でロックをかける時は、 地の目に対する角度は左右対象ではなくなります。 ですが今回大事なのは角度の問題ではなく 今まで伸びていないと理解していた箇所がいさっていた点です。 伸びにくいと、いさりやすいは別物です。 これに気づけたことはとても大切なことです。 この解釈の違いは、難易度の高い生地になるほど重要になります。 つまり、伸びていないのではなく、いさっているということになります。
正方形の角度
角度の違いで地の目の状況が変わります。 状況とは、伸びるか、伸びないか、いさるか、いさらないかです。 ここからはあえて4種類の状況を書かせていただきます。
正方形の地の目の角度を変えることで、どのように変わるかみてみましょう 正方形の頂点を固定して回転させると、地の目の角度も少しづつ変わっていきます。
グリッド線で地の目を追い、 45度以下と45度以上を抜き取ってロックをかけ、伸びを確認してみました。 地の目の角度の違いで起こる伸縮条件を利用して、 このようにぐるり伸びる正方形とぐるり伸びない(いさりやすい)正方形を作り出すことも可能なのです。
正方形を回転させて一周させるとよくわかりますが 赤の正方形を抜き取ればぐるり伸びる正方形になります。 黄色の正方形を抜き取ればぐるり伸びない(いさりやすい)正方形になります。 45度線を越える度に、この区間は伸びる、この区間は伸びないなどと、 正方形の状況は変わっていきます。
終わりに
地の目の理解は前提条件でしかありません。 大切なのは理解した上で地の目をどのように利用するかなのです。 伸びるということは、悪いということではありません。 最初にお話しした通り伸びるということは馴染みがいいということでもあります。 逆に、縫い目の位置によっては伸ばさなければツレじわが出てしまったり、 寸法を意識しすぎた緊張感のある縫い目は、全体的な雰囲気を硬くしてしまうこともあります。
例えば曲線で紹介しました画像のカーブの傾斜は、 ブラウスやスカートの裾などでよく見かけるカーブです。 裾を三つ折り始末やルイス始末などをする時に、 段々とヘムが流れていき斜めジワが出来て収まりがつかなくなる。 そんな経験や商品を見たことがある方は少なくないと思います。 これは単純に押さえ金に押されてヘムが余ってくる、というわけだけではなく、 縫い始めの地の目の角度は伸びやすい、つまり馴染みやすいから自然と収まる。 カーブの山を越えた後は伸びにくいので馴染みが悪く収まりがつかなくなる。 つまり具体的な状況は、少しづつ押されてはいるのだが、最初は馴染みやいのでなんとかなる。 カーブの山を越えると、少しづつ押されてきている上に、 さらに馴染みも悪くなるから収まらない。と、なるわけです
例えばひし形で紹介した画像のヨコ長のひし形の上の辺は、 ブラウスの肩線などに使われているような線です。 衿ぐりから縫うか、袖ぐりから縫うかで 肩線の表情は変わることになります。
例えば地の目の角度で紹介したメカニズムは、 細かいデザイン的な切り替えやマチなどの時、ただ単純にタテ地を通すではなく、 どのような表情を持たせたいかで考えてみてもいい。 切り替えが重なる箇所では、縫い目をどの順番で縫っていけば地の目を利用し、 描いている表情を縫い目に持たせることができるか考える。 地の目を理解するということはそういうことなのです
以下はとても大事なことです、必ず意味を理解し、覚えてください。 意識しなければならないことは、 伸びる、伸びない、いさる、いさらないではなく、 生地やシルエットや仕様に対して、地の目のメカニズムを利用して、 各縫い目にどのような表情持たせるかを判断することです。 伸びるが間違いでもなく、伸びないが正解でも無いのです。 どちらが適しているかを判断できるかで、初めて正解か間違いかが決まるのです。
ここで紹介した内容は、地の目を理解することの基本でしかありません。 服というのは生地一枚でミシンをかけることは非常に少ないです。 2枚もしくは3枚以上と縫い合わせることになります。 一つの接ぎ目の中で最初から最後まで同じ地の目が通っているわけでもありません つまり意識しなければならない地の目の数も接ぎ合わせる枚数によって変わることになります。
常に意識しながら経験を積むことで、必ず地の目は見えてくるようになります。 ただ経験を積めば良いというわけではなく、常に意識をし考えることが大事なのです。