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made in tokyo

第9回全国アパレルものづくりサミットでのお話3つ

最初に

先日開催されたものづくりサミットにて、元縫製工場管理者からの観点でスペシャルだと感じたお話を3つ紹介します。

■スペシャル話1(青森サンラインさん)

量産でハンドホールのお仕事があり、従業員数名にハンドホールを覚えてもらったのだが、担当者によって微妙に仕上がりが違うので、 名前を付けて壁に貼り出し、見比べることにしたそうです。 それを偶然視察に来ていた海外ブランドのデザイナーが見て、誰々さんのハンドホールでお願いしたいと言われたというお話。

この話を聞いて思うこと。

技術というのは個々に味があり、それを理解できる人にとってはデザインに成り得ると私は思っています。 例えばハンドホールじゃなくても、機械ホールでも一緒です。 最近の機械ホールは糸調子以外にも手軽に目の数や振り幅などデジタルですぐに調整することが出来ます。 ホールを華奢にしたりダイナミックにしたり。 シャツ穴にしてもウィップ縫いやパール縫いだけでなくアンティーク調の放射状のホールだったりがあります。 ハンドホールが出来ない工場でも機械ホールで色々な表情で部分縫いを作り、提案する事だって出来ます。 こんな提案をされたことがあるメーカーがあるでしょうか?デザイナーやパタンナーにとっては面白味のある工場となるのではと思います。 当たり前の仕様も見せ方次第で工場にとってのスペシャリテに成り得るはずです。

■スペシャル話2(東京マルチョウニットさん)

1ミリ巾でかけられるロックミシンや2.4ミリ巾でかけられる扁平縫いミシンなど、ミシンの改造をして特許を取ったお話。

この話を聞いて思うこと。

ミシンや押さえを改造している工場は多いと思います。 『改造』というとなんだか規模が大きくなってしまいますが、『工夫』と言えば縫製工場の皆さんにとっては日常かと思います。 例えば、押さえの巾を削ったりミシンの台を削ったり穴をあけたりなど。他には細巾で仕上げるためのアタッチメントの調整や設定など、 工場の歴史の中で代々受け継がれ磨かれてきた『工夫』は、第三者から見れば十分特許のレベルなのです。 工場内では当たり前になっているその『工夫』がスペシャリテだと認識できるかが大事なことなのかと思います。

■スペシャル話3(東京マルチョウニットさん)

OEMの商品で取引先のネーム以外に自社のピスネームを付けているお話。

この話を聞いて思うこと。

当初は社内外からの反発があったそうですが、今はブランドさんから「御社のネームを付けて欲しい」と言われるまでになったそうです。 OEMの商品に製造の証として自社ネームをつけることは、私も縫製工場時代に夢見ていましたが、念願叶わずでした。 工場にとっては商品に何かあった時に矢面に立たされる不安があるし、ブランドにとってはブランドイメージと違う可能性もある。 そもそもブランドにとって当時はメリットがあまりありませんでした。 ただ昨今では、物作りのストーリーを商品の付加価値とする風潮があり、今の時代には合っていると思います。

最後に

ものづくりサミットに登壇される方は、偉大な方が多く規模感のでかいお話になりがちですが、 元々はその方達も一人の技術者であったりします。なので、そのお話の中には縫製職人として身近に感じるエピソードもあるのです。 その方達の考えや意識していることは刺激に必ずなりますので、 個人でやられている縫製士さんや小規模の縫製工場さんたちも、もの作りサミットに参加される意義はあると思います。 なので来年会場で会えたら嬉しく思います。もの作りサミットの回し者ではございません・・。