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糸調子の勘違い

初めに

糸調子は強いとか弱いとかで表現されます。 それは決して間違いでは無いのですが、強弱で表現していると本来イメージすべきことが見えづらいです。 強弱とはダイアルのバネの強弱でしかありません

強弱ではなく長短

結論から言いますと強弱ではなく長短でイメージするべきです。 縫い目をイメージする時に必要なのは長短です。 縫い目に対してピッタリの長さの糸で縫うのか、それともゆとりを糸に持たせて縫うのか、縫い目に対する糸の長さをイメージすべきです。 糸調子を強くすれば縫い目に対して糸は短くなります。弱くすれば糸は長くなります。 糸調子とは縫う糸の長さを決めることなのです。 地の目や生地を踏まえてどれくらいのゆとりを縫い目に持たせるかを考えることが糸調子をとるということなのです。 例えばコットンのブラウスで後ろ中心に地の目の通った接ぎがあるとします。この場合縫い目はピリ付きやすいです。 そうなると糸にはピリ付かない程度の緩みが必要になります。それは「糸調子を弱める」と表現されることが多いですが。 「糸に緩みを持たせる」や「糸を置いてくる」などと私は言います。 もちろんピリ付きに関しては糸調子だけではなく縫う方のハンドリングも重要ではあります。

適切な糸調子

糸調子とは上糸も下糸も同じ張力で縫われているのが「いい糸調子」と思われていますが、 その「いい糸調子」が適切な縫い目は少ないです。 服は立体ですので内回りと外回りがあります。 必然的に内回りは短く外回りは長くなりますので、 そのような箇所では上糸も下糸も同じ張力の「いい糸調子」は適切では無いです。 糸調子も内回りは短く外回りは長くあるべきです。 例えばそで口が三つ折りだとしたら内側の糸は強く表側の糸は弱くとなります。 極端な強弱では縫い目が泳いだり、線になったりしますので、ここで説明しているのはほんの僅かな強弱の話です。

糸調子での糸の長さの違い

3種類の極端な強弱を付けた糸調子で同じ距離を縫ってみました

< 糸調子の違う3本 >

糸調子の違う3本

この画像の縫い目を糸を切らずに解いて横に並べて見ました。

< 解いた糸 >

糸調子の違う解いた糸

上の画像のように解いた糸の長さが糸調子によって違います。 糸調子とは糸の長さが変わることなのです。 糸が長ければゆとりがあるので生地の動きに追従できます。 糸が短ければ、いさったりギャザーになります。 縫い目がピリ付いてしまった場合どんなにアイロンで誤魔化しても糸が短ければピリ付きは解消されません。 それは縫い目に対して糸が短いからです。糸は伸びますが戻りますので限界もあります。 必ずしも縫い目にゆとりが必要というわけでは無いです。 どちらが正解ではなく、糸調子を理解して各仕様に合わせて柔軟に向き合えるのが大切なことです。

針目による糸調子の変化

運針数によって糸調子は変わります。 糸調子とは運針数に合わせて調整するものです。 同じ距離を同じ糸調子で運針数に極端に差をつけて縫ってみました。

< 運針数の違う2本 >

運針数の違う2本

この画像の縫い目も糸を切らずにほどいて横に並べてみます。

< 解いた糸 >

運針数の違う2本を解いた糸

< 長さの差 >

運針数の違う2本を解いた糸の差

赤糸が上糸で黒が下糸です。 このように同じ糸調子でも針目が変われば上糸と下糸のバランスが崩れます。 今回は3c間9針の方に糸調子を合わせています。 3c間26針の方はバランスが崩れ更に上糸が長くなっています。 針目が変われば針が刺さって次に針が刺さるまでの距離が変わるので糸の動きの条件が変わり必然的に糸調子は変わることになります。 運針数が細かくなると上糸と下糸が交差する数が多くなるので粗ミシンよりも糸の長さが必要になります。 糸が交差する数が増える分遊びも増えるのです。 糸調子さえ整えれば運針数がある程細かい方が遊びがあり馴染みが作りやすいです。

終わりに

糸調子は上糸と下糸の張力が同じがいいとされています。 私はこれをゴールデン糸調子(ダサい)と呼んでいます。 ですが私は縫う箇所によって上糸の糸調子を変えてバランスを調整したりします。 ゴールデン糸調子の場合はほどく時に非常に手間がかかります。 なので私の縫い目は見た目にはわからないほどにバランスを本当に少しだけ崩して片方の糸の調子を強くしてあります。 解くときはそのほんの少し強くしてある方の糸に目打ちを入れていけばほどきやすいです。