ロックの糸調子を手の感覚で変える
初めに
糸調子とは生地によって変わるものですが、更にはその生地の地の目によってもベストな糸調子というものは変わってしまいます。 本来糸調子はミシンについている糸調子ダイアルで変えます。 ですが地の目が変わる度にダイアルをいじるわけにもいきませんし、そもそも時間がかかるしめんどくさいです。 それを手で、正確には指で糸調子を操作しようというお話です。
糸調子
ミシンの糸調子とは糸調子ダイアルの中にあるバネをどれだけの強さで押さえるかで、 通る糸をバネで圧縮する力を操作して、糸の張力を変えることです。 もっと簡単にいうと糸をどれだけの強さで押さえているかどうかなだけです。 通常のミシンであれば下糸の調整も必要です。 下糸も糸調子だけを考えたら大変なメカニズムがあるわけではなく、 ボビンの糸の出口を狭くするか広くするかの違いで糸の張力を変えているだけです。 糸調子とはとてもアナログな考え方で操作されているのです
糸を掴む
下の画像のように左右同じ角度の肩線でもかける向きで条件が変わります。 生地には地の目によって伸びる箇所と詰まる箇所があります。 地の目の角度とミシンをかける向きでの伸びと縮みのメカニズムはこちらで紹介しています。 違う肩線にする度に糸調子を変えるのは現実的ではないです。 量産でロックの台数に余裕があれば肩線ごとに糸調子の違うロックを用意してもいいかと思いますが、 今回は一台のロックでなんとかしましょう。
それでは簡単な方法を説明します。糸を指で掴んでしまいましょう。 糸調子ダイアルを変えてしまえば、糸調子を戻すという工程も必要になってしまいます。 ダイアルを変えなくても糸の張力を変えればいいだけなのでこれで充分です。 糸を離せばもとの糸調子に戻ります。
これでダイアルを変えなくても糸調子を強くできます。
これはロックだけではなく通常のミシンでも使える技ですし、特にメローではロック以上に力を発揮します。 メローはフリル的な箇所に使われることが多く、フリルというのはカーブしていたりするので地の目が通っていなかったりします。 その上左右対称であれば片方は必ず伸びて片方は必ず詰まります。
終わりに
糸調子は生地の地の目に合わせるのが理想ですが、1着の商品のそれぞれの縫い目にはそれぞれの地の目が存在しています。 その全てに糸調子を合わせるのは現実的ではありません。 伸びるとわかってる箇所は地の目をキープしながら押さえの圧力を右足で操作して生地を送ってあげたり、 詰まる箇所は生地を押さえすぎないように自然に馴染ませるように生地を送ってあげるようにする。 もちろん左右で縫う向きが違う場合は左右でアイロンの時にイメージすることも正反対になります。 アイロンと本縫いミシンではこのように意識すれば生地の伸びや詰まりに向き合うことができますが、 ロックやメローは押さえのホールド力が強いので伸びる時は伸び、詰まる時は詰まります。 その地の目の時だけ押さえの圧力を弱くするのもロックやメローの性質上、現実的ではないです。 通常であればアイロンで伸びを押さえるというのが一般的かと思います。 裏が付くのであればロックの表裏を無視しても、いいかと思います。 他には硬化剤を使って生地を固定する案もありますが、工程が増えるしコストもかかるので余程の薄い生地の場合に限るのかと思います。 今回紹介した方法は乱暴なやり方ではありますが、糸調子の理屈が分かっていなければ出ないアイディアです。 本質を理解することは新しいアイディアを生み出すための第一歩なのです。