MIT

made in tokyo

ダーツ先で
返針しない
もちろん
糸も結ばない
その方法

初めに

返し針というのは縫い糸がほどけない為に必要な工程になります。 ですがその反面、不必要な箇所に返針があれば、それは縫い直した跡として残ります。 縫製業界では縫い始めと縫い終わりの返針ではない無駄な返針は悪とされることが多いです。 不器用に返針をした箇所は通常の縫い目よりもテンションがかかりますので縫い目が詰まることになります。 それは薄い生地になるほどその影響は強く出ます。 ステッチならば不要な箇所に返針があれば目立ちますし、繋ぎがないステッチの方がスッキリしています。 以上の理由から出来るだけ返針はない方がいいとされています。

返針がダメというわけではないです。返針が目立つのがダメなのです。 『ここに返針があったの?』と思わせられる器用な返針なら問題はありません。 それこそ技術だと私は思います

ダーツ先の返針

ダーツ先の返針は、ネットで検索しても工夫をこらした色々な方法が出てきますので是非検索してみていただきたいです。 ダーツ先というのはなかなかに縫い手に取って関心のある箇所のようです。 ダーツ先では返針せずに糸を結ぶやり方や、 ダーツ先に真っ直ぐに入らずに少し角度を変えたりするやり方、 他には返針の時は内側に入れるように縫う。 などなど色々な考え方と方法があるかと思います。

今回はダーツ先を返針することなく、そして糸を結ぶこともなくダーツ先から縫い始める方法の紹介になります。 本格的な量産ではなかなかに使えるやり方ではありませんので興味本位で読んで頂ければと思います。

上糸を下糸にする

まずは通常通りに上糸を通します、針穴を通した後にその糸をどぶ板の穴に入れ下に通します。 わかりづらいので画像で説明します。

< どぶ板の下に通す >

糸をどぶ板の下に通す

矢印のように糸を下に通します。

次にどぶ板の下に通した糸をボビンに巻きます

< ボビンに巻く >

ボビンに糸を巻く

矢印のように糸をボビンに巻きます。

この場合、ボビンは手でしか巻けません。 ダーツが縫えるくらいの糸をボビンに巻き終えたら、 ボビンケースに入れてミシンに装着しましょう。 緩みが出ないように糸をピンと張るまで上糸側に引きます。 これで上糸と下糸が一本になりました。 糸がつながっているのでほつれるわけはなく返し針は不要ということになります。

< どぶ板を閉じる >

どぶ板を閉めた時の画像

糸が針穴を通ってボビンへつながっています。

ダーツを縫う

それでは縫ってみましょう。 縫い始めは必ずダーツ先からでなければ意味がありません。 ダーツ先から縫うと送り歯が片方しかかまないので歪みやすくなりますが、そこはシンプルに頑張りましょう。 当て紙などを添える方法もありますが、物に頼らずにシンプルに頑張るのが私は好きです。 送り歯のメカニズムは以前にこちら(送り歯の機能性)で紹介しました。参考までに。

< ダーツ先から縫います >

ダーツ先から縫う

糸印はダーツ先の印です。

このあたりで気付いた方もいるかもしれません。 返針が不要なのは縫い始めの一回きりです。 次のダーツを縫うときは、上糸を再度どぶ板の下に通してボビンに手で糸を巻かなければなりません…。 あまりにも儚い…これが量産では使えないという理由です。 縫い直しも同様です。いつも以上に緊張感を持ってダーツと向き合うことになります。

それではダーツ先を通常の返し針をしたものと今回の方法と見比べてみましょう。

< ダーツ先返針無し >

ダーツ先のアップ、返針無し

< ダーツ先返針有り >

ダーツ先のアップ、返針有り

アイロンはせず、縫いっぱなしの画像です。

< 返針無し >

アイロン後の裏からの画像、返針有り

< 返針有り >

アイロン後の裏からの画像、返針無し

アイロン後の裏からの画像です。

< 返針無し >

アイロン後の表からの画像、返針無し

< 返針有り >

アイロン後の表からの画像、返針有り

アイロン後の表からの画像です。 よく見ると地の目の歪みがわかります。

このように返針の影響はダーツ先では特に大きいです。 同じ所を何度も縫い返すのですから当たり前といえば当たり前です。

終わりに

今回のやり方は量産では到底使えないやり方です。 オーダーやコレクションのような一枚仕事で活躍の場があるかと思います。 透ける生地や薄いシルクのバイヤス、そのような条件では特にチカラを発揮します。 ただ必要以上に時間を消費しますのでそれなりの覚悟が必要です。

最後に、負け惜しみではないのですが、 今回使用した画像の返し針をしたダーツの方は、返し針の影響がやや目立つように縫いました。 返し針を入れてもスッキリとダーツ先を仕上げられるようになるのがそもそもの目指すべき場所であります。